ずっと好きだった……。
父親が倒れてから、右も左もわからない智広の側について社長代行の仕事をサポートしてくれる惟秋のことが、どれほど心強かったことか。同時に自分がいかに無力で、どうしたら惟秋のお荷物にならずに済むかと悩んだことか。惟秋に意地を張って、反発して、ぐるぐる悔やんで落ち込んで、そんな自分が嫌になって――。
思い返せばこの三ヶ月、智広の側にはいつも惟秋がいてくれたのだ。会社のことを、そして何よりも智広のことを大切に思ってくれている惟秋が。
いまなら、ようやく素直になれる気がした。
「惟秋……」
智広は惟秋の頭を引き寄せ、こんどは自分からそっと口づけてささやいた。
「好きだ、惟秋。おれを……、抱いてくれ」
「……あ…っ…!」
深い角度でゆっくり入ってきた惟秋に、思わず甘い声が零れた。
「智広さん……」
少しかすれた声で名前を呼ばれて、繋がったところから背筋にかけて、ぞくりとした震えが走った。
「惟…秋…っ……」
無理やり奪うのではなく、気遣うように智広の身体を拓いていく惟秋の仕種に、ふいに切なくなって智広が自分よりずっと逞しい背中に両手をすがらせると、さらに接合が深まった。
「あぁっ……!」
熱い楔に身体の中心を貫かれて惟秋の熱が伝わり、じわじわと智広の中で拡がっていく。
「智広さん、……だいじょうぶ…ですか?」
「んっ…、あっ……、来て…惟秋…っ」
「智広さん……」
「あ…っ」
ぐっと突き上げられて、智広は背中をのけ反らせた。智広の前は、惟秋の硬い腹に擦られて蜜をこぼし、その存在を主張していた。
「智広さん…愛してます……」
「あっ…あ…っ、あっ…」
ゆっくりと中をかき混ぜられて、智広は切れ切れに喘ぎながらシーツを握り締めた。
「……いいですか、智広さん…」
「んっ、うん…っ」
智広が呼吸を乱しながらうなずくと、惟秋は大きく開かせた智広の足の間に身体を進めた。
「あ…、んっ!」
深く熱く埋め込まれた惟秋自身の衝撃が、甘い戦慄をともなって智広の感覚を支配した。
「ああっ」
直後にぎりぎりまで引き抜かれ、絡んだ智広の粘膜が、まるで追いすがるようにびくびくとぜん動する。
「…惟…ぁきっ……!」
「智広…さ…っ」
徐々に激しくなっていく抜き挿しが、惟秋の言葉を途切れさせた。
「あっ、あっ、…あぁっ、あっ……、あっ…あぁっ――」
自分の知らないどこか彼方へ連れていかれる寸前、――ずっと一緒です……と、ささやいた惟秋の声が熱く智広の胸に沁み入った。
季節は夏へと向かっている。智広は早朝の戦略企画室の部屋からひとり窓の外を見下ろした。通りの街路樹は夏の眩しい日差しに照らされて、アスファルトの地面に濃い影を落としている。
今日も暑くなりそうだ。
智広はデスクの上の、きれいにプリントされた企画書に満足げな視線を戻した。自分にできるところから、一歩一歩進めていけばいい。惟秋に言われていたことが、やっとわかってきた気がする。惟秋が側についていてくれたら、きっとやっていけると思う。
智広の父、泰一のリハビリはかなり順調で、先週退院して、リハビリには自宅から通うようになった。泰一がどの程度で仕事に復帰できるのかまだわからないが、社長が戻ってきたときでも、智広は胸を張って自分の仕事を見せることができるようになりたい。
ドアが開く気配がして、智広がひとりきりだった戦略企画室に誰か入ってきた。
「智広さん……?」
智広の予想通り、惟秋が驚いた顔でこっちを見る。
「遅いぞ、惟秋」
にやりとして智広が言うと、
「おはようございます。智広さんが早いのですよ。雪でも降らなければいいですが」
そう惟秋は澄まして応じ、端整な容貌に一瞬微笑をひらめかせた。自分の席について惟秋はパソコンを立ち上げ、智広に今日のスケジュールの確認を始める。
クラゲは卒業だな、と智広は思う。
惟秋の部屋のクラゲになら、なってみたい気もするけど――。
その想像に自然に口元が綻んで、「智広さん?」と、惟秋に怪訝な顔をされる。
「ああ、ごめん。なんでもない」
惟秋とならきっとだいじょうぶだ。智広は表情を引き締めて、心から信頼するパートナーの顔を見返した。
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