マンションの部屋に招き入れられた途端に、冴島は満澄の身体を抱きすくめた。いきなりの仕種に戸惑う満澄の抵抗を許さず、強引に唇をふさぐ。
「んっ…」
苦しげに息を洩らしていた満澄は、やがて冴島の舌に応え身体を預けてきた。
そんな年上の男の仕種に胸が衝かれる心持ちがして、冴島は口づけたまま満澄のシャツのボタンに手を掛けた。すると、
「待て、いま帰ったばかりなんだ」
満澄が息を喘がせて言った。
「シャワーを浴びさせてくれ」
焦らすつもりではないだろうが、なかなかバスルームから出てこない満澄に冴島は待切れず、服のままそっとドアを開いて湯気の中に忍び込んだ。
「…っ」
ボディーシャンプーの泡をシャワーで流しかけていた満澄は、奥二重の瞳を見開いて冴島を見た。
「いま出るから――。それに狭いし、濡れるぞ」
眉をしかめた満澄の裸体を、冴島はわざと舐め廻すように凝視した。それなりに鍛えられて、引き締まった身体だ。流れる泡と水をたどって自然と、まだ眠っている満澄の股間の雄へと眼が引き寄せられる。
「冴島」
満澄の非難するような声色を無視して、冴島はささやいた。
「……いつもどうしてたんだ? 自分で慰めたりするのか……?」
露悪的な冴島の視線に、満澄は羞恥に目元を赤らめた。
「ばか言え…」
中高生じゃあるまいし――、と続けた満澄を冴島はことばで弄る。
「おれとの、……思い出したことはあるだろう?」
眼を眇めてじっと見つめると、満澄がつと視線を逸らした。
「……たまには、――ある」
素直に認めた満澄に酷く冴島はそそられる。
「やって見せてくれ」
低くささやくと、満澄はびくんと身体を揺らした。
「な…っ…!」
「あんたが自分でやるとこ、見てみたい」
唆すようにささやくと、ごくりと満澄の喉が動いた。冴島のセリフだけで満澄の雄は目覚めて、ふるりと下生えの中で揺らめく。
満澄は糸で操られるかのように、ぎこちなく右手を股間へと這わせて指を自分の雄に絡めた。
「…っ、……」
濡れて滑りがいい先端を、親指で輪を描くようになぞりながら、握った茎をゆっくりと扱き上げる。
つぶさに冴島に観察されているということが余計に刺激を高めているのか、満澄の吐息にはすぐに隠し切れない甘さが滲み始めた。
「んっ…、…ん、…っ、ふっ…」
艶かしく目元を潤ませて、快楽の頂点をひとり目指している満澄を見て、冴島のモノはジーンズの中で硬く張り詰めてきていた。すぐにでもこの凶暴な楔を満澄の中に埋めてしまいたかった。
しかし予想外に艶めく満澄の姿態に、冴島は目を奪われていた。もっとこの男がひとり乱れるところを見てみたいと思う。
「前だけじゃ、すぐにはイけないだろう……?」
「…ッ!」
図星をつかれたのか、肩で息をしながら瞠目して満澄はすぐに冴島を睨み返した。半開きになった唇が震えている。
「――後ろも……、自分で抉って見せてくれ……」
「……、…」
冴島の要求に胸を喘がせて、満澄はぎゅっと両目を瞑った。握っていた茎を左手で持ちかえると、右手をおずおずと尻のはざまへとすべらせる。
流れきっていないボディーシャンプーの滑りを借りて、つぷりと指を差し入れる。
「う」
満澄の表情から、冴島には中を拡げるように指を廻し、熱い粘膜を探る様子が手に取るようにわかる。
「もっと奥まで」
催眠術にかけられたように、冴島に命じられるがまま満澄の指が奥を抉るように出し入れされる。
「指を増やして」
満澄のそこは解れてきたのか、指を二本、三本とまとめて突き入れても、卑猥な水音をたてて飲み込んでいくようになってきた。
満澄の呼吸も乱れ始めて、前後の手の動きが激しくなる。
「あっ…、ぅあ、はっ、はっ…、はぁっ…!」
やがて「うっ」と全身を硬直させると、満澄は白濁した欲望をバスルームのタイルに飛び散らせた。
「…、……」
まだ荒く息をつきながら、脱力したようにバスルームの壁に両手をついている満澄に、背後から冴島は近づいた。ジーンズの前をくつろげて、硬くしなった自身を取り出す。
「挿れるぞ」
返事を待たずに冴島は猛った楔を、満澄のほころんだ狭間へと押し当てた。
「うっ、あっ、待て、まだ…っ…、ああぁっ!」
放った余韻から立ち直っていない満澄が抵抗したが、ずぶりとそのまま貫いた。腰を揺すり上げて一気に最奥まで穿つ。
「はうっ! …あぁッ!」
涙を流しながら満澄がのけ反った。冴島を食いちぎらんばかりに締め付ける。
「う!」
と、思わず冴島は呻いた。
満澄の絡みつく熱い粘膜に一瞬気が遠くなる。
「満澄…っ、熱い、…ドロドロだ……」
「……言うっ、なっ…!」
髪を振り乱して、必死に耐える満澄の前を冴島は強く握り込んだ。
「あぁッ!」
冴島に後ろを穿たれながら、満澄のモノは再度硬く昂っていた。
「ひっ、…あっ、はぁあッ…、くっ、あぁ…ッ!」
激しく挿送されながら扱かれて、満澄の口からは堪え切れず悲鳴のような嬌声がこぼれ落ちる。
冴島の息も乱れている。自分の腕の中であられもなく乱れる男が、どうしようもなく愛しい。至上の快楽までもう少しだ。冴島は力づくで満澄を高みまで一緒に連れて行く。
一気に白熱して焼き切れる瞬間、冴島は満澄の身体を抱えて、絶頂の虚空へと身を躍らせた。
あんなに激しく抱いたのに、幸い満澄のそこは酷いことにはなっていなかった。自分が満澄の中に吐き出した欲望を、冴島はきれいにかき出して清めてやる。
もしかしたら冴島が入る前のバスルームで、満澄は自分で解していたのかもしれない。そんなことを本人に訊ねようなものなら、きっとむきになって否定するだろうが。
服を脱ぎ捨てた冴島は、気を失ってしまった満澄の身体を背後から抱きかかえて、ゆっくりと湯を張った浴槽につかった。
自分のベッドで静かに寝息をたてる満澄を、冴島は添い寝をしながら見守っていた。
――いつになったら目を醒ますのか。
無防備に眠り続ける満澄の様子に、冴島は少しばかり心配になってくる。
――かなり無理をさせたか。
満澄をことばで弄って、最初は自分でさせたりしたのに、飢えていたのは自分自身だったのだと冴島は今さらながらに気がついた。
身体だけではない、冴島は満澄の存在そのものに飢えていた。
――いつか喰いつくすかもしれない……。
冴島は思った。満澄のことを汚したくないと願う一方で、自分だけのものにしてしまいたいという絶対的な欲望……。
もう止められないと思う。この気持は、もう止めることができない。
この男は自分に、『死ぬときは断ってからにしろ』と言った。
一緒に連れていこうと、冴島は思った。
自分が死ぬときは、この男も殺そうと――。
でもいまは静かに寝顔を眺めていたい。満澄が目を醒ますまでは。穏やかな夜よ、しばしこのまま……。
そっと冴島は手を伸ばすと、眠る満澄の頬に触れ、ゆっくりと指先でその輪郭をなぞった。
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