■ 壊されてもいい 7 ■

 

「ひぁっ!」
  茎を握りこまれ、すでにそれが硬く勃っていたことを教えられる。
「……いやらしい子だ」
  陸海は熱にうかされたまま、その場に凍りついた。
  水城の蔑みきった声が耳につき刺さる。
「こんなに虐められて、きみは悦んでいるのか……?」
「あぁ…っ」
「ココをこんなふうに恥ずかしげもなくおっ勃てて」
「あっ……、ちがっ――」
「違うものか」
  必死に首を振る陸海を後ろから抱きすくめるように拘束して、ふるふるとこちらもつられて首を振ったモノを水城は強く握った。
「あっ……ううっ!」
  露出した敏感な部分をぬるぬるとこすられて、苦し紛れに喉をのけぞらせ陸海は悶える。
「いやっ、あっ、あぁっ、先…せっ、あぁっ……!」
  先端をもみこまれ、茎をしごかれて、嫌だと抵抗する身体を強制的に高みへと追いやられる。
「っ、くぅ……う……っ!」
  敏感な先っぽのくぼみを爪でこじ開けられ、ショックで陸海は暴発してしまっていた。腰を痙攣させるように前後に振って、白濁したものを呻きながら水城の手の中に放逐すると、がくりと膝から床に崩れ落ちる。
  放心して肩で息をしている陸海の背後で、水城は縛められていた両手首のベルトを外した。続いてタオルの目隠しを解いてくれる。
  真っ先に目に入ったのはフローリングの木目だった。こらえきれずぱたぱたと涙が落ちる。
「く…っ……」
  フローリングに膝を折ったまま、わなわなと身体が震えるのをどうしても止められない。
  もう少しだけ陸海のプライドが高くなかったなら、その場にうずくまって号泣してしまったかもしれない。
  なけなしのプライドを振り絞って、必死に嗚咽をかみ殺していた陸海の頭上から、水城の声が降ってきた。
「これでわかった? おれには強い嗜虐趣味があるんだ。相手を手酷く虐めないと性的にまったく興奮しない」
  にわかには信じられない言葉だった。しかし、たったいま水城が自分にした仕打ちは妄想でなく現実だ。
「そしてきみは、被虐に悦びを感じる人種だ」
「っ!」
  頭を殴りつけられたような衝撃があった。
  そんなこと、これまでの人生で一度も想像したことすらなかった。
  よりにもよって水城に、自分の中にひそかに眠っていて本人すら気づかなかった忌むべき習性を指摘されて、陸海は脳裏が真っ白に焼き尽くされていくのを、おぼろげに自分のことではないかのように感じた。
「こんなこと、陸海くんだって、本当は知りたくなかったろう?」
  静かに言った水城は、なぜか傷ついて哀しそうだった。
「す、すみません。僕……帰ります……っ!」
  衣服をかき集めてとにかく身に着けると、後も見ずに水城のマンションの部屋を飛び出して、夢中で最寄の地下鉄の駅まで走った。
  苦しくて鼓動が乱れ、こめかみは割れそうに痛むほど強く脈を打っている。
  真っ青な顔で、汗みどろになってホームにたどりつき、荒い息をしながら車両に乗り込んだ陸海を、夕方の帰宅時間帯で混み始めた地下鉄内の通勤客たちは、持ち前の無関心さでやり過ごした。
  よく効いたエアコンの冷気で汗に濡れたシャツが貼りついた肌が冷やされていくにつれ、陸海の身体はカタカタと小さく小刻みに震えだした。
  水城に痛めつけられた両乳首がじんじんと熱を持って疼いている。
  Tシャツにこすれるだけで、あやうく声を洩らしそうになるほどの違和感があった。おそらく熱を持って腫れあがった乳首は勃ったままで、硬くしこっている様子がTシャツの上からも見て取れた。
『理由が知りたいか?』
  頭の中で、水城の低いけれどよく透る声が再生される。
  その声を思い出すと、鳥肌が立って全身の力が抜け落ちていくようだった。
(あんな声に逆らえるはずがない)
  立ったまま、ぎゅっと吊り革を握っていないと、陸海はへなへなとその場に座り込んでしまいそうだった。手の指が汗で滑って気持ち悪い。
  しかし濡れたシャツよりも、汗で滑る指よりも、もっと気持ち悪いのは自分自身だった。
  水城に命じられれば、どんな恥ずかしいことでもしてしまいそうな予感のする自分が、陸海はとても怖かった――。

 

「もう、ここには来ないかと思った」
  夕方、玄関で陸海を出迎えた水城は、薄く微笑んだ。
「先生、僕は……」
  あれから四日が経っていた。
  その間、水城は<ル・プティ・ボワ>にやって来なかったから、陸海が彼の顔を見るのは四日ぶりである。
  たったの四日なのに、ずいぶん長い間顔を見ていなかったような心地がして、陸海は懐かしさに少し泣きたくなった。
「どうぞ、上がって。話なら中でしよう」
  思いつめた表情の陸海に優しく声を掛ける水城は、まったく非の打ち所もない分別ある大人の男だった。この顔の裏側に、もうひとつ、容赦のないサディストの顔があるとは、一体誰に気づくことができるだろう。
  水城の態度が優しければ優しいほど、陸海の胸中にはまたぞろ葛藤が生まれるのを自覚せざるを得なかった。
(だけど、もう決めたことだ)
  この四日間、すごく悩んだ。食事もできないくらいに葛藤した。
  そうして自らが出した答えだった。
「それで……?」
  ソファに向かい合って座った水城は単刀直入に切り出した。
「やっぱり僕は、先生のことが諦められません」
  お腹の底に力をこめて陸海は言った。
「あんなひどいことをされたのに?」
「……はい。先生がおっしゃったように、もしかしたら僕には被虐願望があるのかもしれません。認めたくないですが……」
  少し眼を伏せてから、陸海は思い切って顔を上げ、水城の双眸を見つめた。
「僕は確かめたいんです。だから先生のお傍においてください」
「それが陸海くんの望み?」
「はい」
  我ながらきっぱりとした返事だった。
  不思議なことに、あんなひどい目にあわせられても、陸海には水城を恨む気は起きなかった。
「僕は……先生のことが、好きです」
  初めて告白できたと思った。
「……陸海くん」
  今度は水城はとめようともしなかった。
「おれも陸海くんのことが好きだよ。だから避けようと思った。大人らしい分別を発揮してね。でもやせ我慢はおしまいだ。今夜からおれはきみのご主人で、陸海くんはおれの奴隷だ。いいね」
  それが陸海と水城の間で、ひそかに取り交わされた新しい契約だった。

 

「先生……苦し……っ、お願い…です…っ、抜いて……ください」
  思わず泣き言が口をついた。
  水城の奴隷としての第一夜は、陸海の想像をはるかに超える体験だった。
  まずバスルームに連れていかれ、直腸洗浄を施された。
  水城手ずから陸海にグリセリン浣腸をすると、苦痛に喘ぐ陸海に水城の目前で排泄するよう強要したのだ。
  信じられない恥辱だったが、大量の浣腸をされたお腹の状態が生理的な限界を超えてしまえば、陸海の意思とは無関係に、水城の目の前でバスルームのタイルの上に泣きながら液状の汚物を撒き散らすこととなった。
  それらをシャワーで洗い流し、肛門深くに指を挿しいれられて中まで洗われた。
  そしてふらふらになった陸海を抱きかかえるように寝室へと連れ込むと、水城は太い鎖のついた、猛犬でもつなぐような首輪を陸海にはめ、皮製の手錠で後ろ手にして自由を奪ったのである。


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