桜流しの夜 5

 鬼頭さんは飲むのは好きなようで、ひとりでもいつも楽しんで飲んでいる。本当の酒好きは飲まない――飲めない――ひとには、無理にすすめたりしないんだなあと、僕は思う。
  のんびりと料理をつつきながら、鬼頭さんと榊と、たわいもない話で笑いながら食事をしていると、僕はずっと前からこうしているような気がしてくる。
  じんわりと、……胸が温かくなってくる。

 その夜、終始上機嫌だった鬼頭さんは、ちょっといつもより酔っぱらっているようだった。お店ではビールのあと日本酒に切り替えて、結構な量を飲んでいたような気がする。
「風呂に入るぞ」
  榊にマンションまで送り届けられると、鬼頭さんはリビングにスーツを脱ぎ散らかしてその足でバスルームに向う。
  鬼頭さんの後を追って慌ててジャケットやらスラックスやらを拾い集めていた僕は、
「響、おまえも来い」
  との声に、「え?」となってしまった。
「早く来いよ」
  鼻歌を歌いながら鬼頭さんの背中はバスルームのドアの向こうへと消えた。
  ウォークインクローゼットにスーツを掛けて、僕は鬼頭さんの新しい下着を用意してバスルームへ行った。
  すりガラス越しに鬼頭さんがざぶざぶと盛大にお湯を使っている気配がする。
  鬼頭さんにはもう何度も抱かれているのに、素っ裸で入っていくのは気恥ずかしかった。――と言っても、お風呂に入るんだから素っ裸なのは当たり前のことで……。
「何してる、響」
「あ、うん」
  僕の気配に気づいたらしい鬼頭さんに、バスルームの中から声を掛けられた。
  僕は思いきって服を脱ぎ捨てるとバスルームのドアを開いた。
  ここのバスルームは広い。豪華な銭湯みたいだと思う。ジャグジー付きの大理石の浴そうと洗面台にトイレ、それからシャワーブースまである。洗面台の大きな鏡に映った自分の貧相な裸を見て、僕は我知らず身をすくませた。

 鬼頭さんはもう身体を洗ってしまったのか、シャンプーの残り香が漂う中で気持良さそうにお湯につかっていた。
  男っぽい逞しい首筋から肩に掛けてのラインに思わず目を奪われる。
  鬼頭さんの肌はさらりとしていて、張りのある皮膚が硬い筋肉を覆っている。僕の細い身体をきしむほど抱きしめられるとき、そんな感触がする。
  思い出すと何だか身体の芯が熱くなってくるようで、慌てて僕は目を逸らすとタオルにボディーシャンプーを含ませてたっぷりと泡を立てた。
  浴そうの中からじっと鬼頭さんに観察されている気がして、僕はことさら身体を洗うことに熱中しなくてはならなかった。
「……背中、流してやろうか?」
  さびを含んだ低音でささやかれて、僕は弾かれたように顔を上げた。
「い、いいよっ」
  返事に勢いがあり過ぎたのかもしれない。
  精悍な眉の下で何回か瞬いてから、鬼頭さんは喉の奥で笑い声を立てた。
「遠慮するな――」
  鬼頭さんはそう言ってさぶりとお湯から上がった。
  泡だらけのタオルを取り上げられて、僕は鬼頭さんに背を向けてイスに座らされた。この方が鬼頭さんの裸を見なくていいからよかったように思うが、背後から肩に手を掛けられて思わずびくんと跳ねてしまう。
  鬼頭さんは気にとめる素振りもなく、ごしごしと僕の背中をこすりだした。誰かにこんな風にしてもらった記憶がなかった気がして、僕はこそばゆい気持を押さえながらじっとされるがままになっていた。すると――、
「…あ…っ」
  背中を流してくれていたはずの鬼頭さんの手が、背後から胸がわに回っていた。
  タオルではなく、泡に濡れた指先で同時に胸の両方の芽をつままれる。
「…っ、き、鬼頭さっ…ん!」
  うろたえた僕が声を上げると耳元で鬼頭さんがくぐもった笑い声を上げた。
「……かわいいな」
「や、ぁあっ」
  いたずらな指に押しつぶされるようにこねられ、僕の乳首は芯を持ってぷくりと膨らんでしまった。
  首筋に吐息混じりのキスが落ちてくる。
「…はぁ…っ……」
  筋をたどるように舐められて、僕は息を喘がせた。
  熱が、急激に下肢にわだかまっていく。
  節操のない僕の茎は、愛撫をねだって頭をもたげ出した。
「ひっ…ぁっ」
  僕の茎の状態はすぐに鬼頭さんに見つかって、大きな手に握り込まれて扱かれた。先端の弱いところを親指でぐりぐりされる。
「…あ、あ、あ、あっ……!」
  胸の芽をいじられながら前を扱かれて、僕はあっさりとイかされてしまった。

 すっかりのぼせてフラフラの僕を、鬼頭さんはバスタオルで簡単にぬぐうと軽々と抱き上げ、そのまま鬼頭さんの寝室に向かった。
  どさりと大きなベッドに投げ出され、僕の身体はしっかりとしたスプリングに抱きとめられた。
「だいじょうぶか?」
「う、うん……」
  僕が返事をすると、鬼頭さんの逞しい全裸の身体が覆い被さってきた。
  え…と、だいじょうぶというのは――。
「あ…っ」
  すぐに熱い唇が胸に落ちてきて、鬼頭さんの『だいじょうぶか?』というのは、このまま抱いてもいいか、という意味だったことに僕は気づいた。
  このマンションには僕の個室もあってベッドもそこにはあるのだけれど、鬼頭さんに抱かれるのはこっちの鬼頭さんの寝室のベッドでのことが多かった。
  だから鬼頭さんが僕をこちらに運んだってことは、そういうことだったのだけれど、のぼせてぼんやりしていた僕はとっさにわからなかったのだ。
「あぁ…んっ」
  さっきバスルームでいたずら半分になぶられた身体はすごく敏感になっていて、赤く色づいた胸の突起を舐められただけで、僕の唇からは淫らな声がこぼれてしまう。
  芯を持った芽を舌先で転がされるとずきんとした衝撃で身体が跳ねて、僕のこらえ性のない股間の茎は早くも頭をもたげて蜜を出し始めていた。
  鬼頭さんの唇が胸から下腹部に降りてきて、身体の芯から期待に震える快感が噴き出してくる。鬼頭さんの舌は蜜で濡れた茎をわざと見過ごして、その奥のすぼまりへと向かった。
「ひゃっ!」
  いきなり舌先でつつかれて、ひだを解すように中に入ってくる熱い感触に思わず変な声を出してしまう。
「や、やだ…鬼頭さん…っ」
  指で解されるのならまだしも、そんなところに舌を挿し込まれて焦って逃げようとする僕を鬼頭さんは放さなかった。
  とがらせた舌先で舐められ、マッサージされて、僕の蕾は濡れてひくつき、ほころんでいった。
「あっ、あ…っ――」
  今度は鬼頭さんの硬い指を入れられて、新たな刺激に僕の茎はずくんと身震いする。
「まだ指一本だぞ?」
  からかうように鬼頭さんがさびを含んだ低い声でささやいた。
  僕はその声だけでイってしまいそうになる。
  指を抜き差しされるたびに反射的にきゅっと締めつけてしまい、鬼頭さんを何度も苦笑させた。
「はぁ…っ」
  ごつごつとした指の節で入口を刺激されると、どうにもならなくなってしまうのだ。
「あぁっ、…き、鬼頭さんっ……、もう――」
  指が増やされてくちゅくちゅと音を立てながら出し入れされると、もう我慢できなくなって僕は身悶えながら懇願した。
「…あうっ」
  まとめた指を中でぐるりと回してから抜かれる。
  と、急に物足りなくなって貪欲にひくついたすぼまりに、熱くて硬い切っ先があてがわれた。
「……ッ…!」
  その大きさを知っている僕の身体が、痛みを予感して本能的にすくんだ。
  すると鬼頭さんの手がなだめるように僕の内腿をなであげる。
「力を抜け」
  低く命じられて僕は力を抜こうと息をはいた。と――、
「んぁっ、ぁああ…っ――」
  タイミングをはかったように強く突き入れられ、カリの部分が僕の中に食い込んだ。
「あ、あぁ……っ」
  そのまま腰を揺すり上げて奥まで貫かれ、身体を限界まで開かれていく苦痛に視界が涙でにじむ。
「響……」
  と、吐息の混ざった声で名を呼ばれて眼を開けると、鬼頭さんの精悍な顔がすぐ近くにあって、気遣わしげな視線でこちらを見つめていた。
  気がつけば僕はすっかり鬼頭さんを埋め込まれていて、最初の痛みは甘いしびれとなって繋がったところからじんじんと全身に伝わり始めている。
  何回も抱かれるうちに、僕の身体は鬼頭さんの大きさと形を憶えてしまっているらしかった。
「好き…、鬼頭さん、大好き……」

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