■ 憂うつなクラゲ 6 ■

 新たに生まれた熱が、智広の身体の芯にふつふつとわだかまり始め、達したばかりの智広の茎が、お湯の中でもう半勃ちになっていた。
「やっ、もう…っ――お願い…っ…、惟秋…やめっ……」
  惟秋の手に弄られる快感に混乱した智広はたまらず懇願した。
「まだこれからですよ」
  ほとんど楽しげに応じた惟秋は「井上くん」と、声をかけた。
「井上くん」
  井上は目前で乱れる勤務先の御曹司の姿に、幻惑されているかのような顔つきで、二度名前を呼ばれてようやく惟秋の方を見た。
「きみは智広さんの前を可愛がってあげて」
「…は、はいっ」
  井上は上擦った声で応じると、有無を言わせない惟秋の命令をすぐに実行に移した。
  息を大きく吸って井上の頭が水中に没すると、智広の茎を両手で包んで迷わず口に含んだのだ。
「ひぁっ!」
  生温い口内に自身を含まれて、智広の腰が跳ねた。先っぽの割れ目を舌でつつきながら、唇をすぼめてきゅっと吸われ、頭の中が一瞬で真っ白になる。
  その間にも惟秋の右手は執拗に智広の胸の突起を転がす。
  ひりつく刺激に、智広は自分を背後から抱きかかえるように拘束している惟秋の左腕に爪を立てた。
  しかし惟秋は頓着せず、智広の首筋に、鎖骨に唇を這わせ、ときどき歯を立てて智広の抵抗をそぐと、その右手を再び水中に沈めた。胸から離れた手がわき腹をたどり腰骨を探りながら尻の割れ目へと伸ばされる。
「……っ!」
  智広の両足の奥の、あわいの窄まりにたどり着いた惟秋の指が、ジャグジーの泡の中でひくつく襞をそろりとなぞる。
「……っ…あ…っ…」
  自分の身に起こりつつある次の予感に震えて、智広ののど奥からかすかな喘ぎがもれた。
  そのとき、ぶはっと息を吐いて、井上の頭が水面の上に上がった。息継ぎをするとすかさずお湯の中に没する。
  まるで取り付かれたように智広に奉仕する井上の口腔で、智広の前はさらに硬く張り詰める。と、
「うっ!」
  唐突に押し入られた指の感触に智広は息を飲んだ。惟秋の指が、侵入を拒もうとする智広の狭い口を割り開いたのだった。
「いっ……」
  異物感をともなった熱いお湯の感触が、わずかに体内に流れ込む。
「智広さん」
  と、惟秋の声が耳朶に吹き込まれた。
「ここでわたしを受け入れてもらいます」
  そう言いながら、惟秋の長い指が狭い粘膜をこじ開けるようにして、奥の方へと差し入れられた。
「あぁっ、やっ、無理っ……」
  身をよじって逃れようとする智広を、二本目の指が追った。
  ――惟秋は本気だ…! 本当におれを抱くつもりだ……。
「あうっ」
  逃げかけた腰をつかんで、惟秋の長い指は智広の狭い口をほぐしながら、指のまたまで埋められたようだ。
  無防備で柔らかな粘膜を身体の内側から探られる感触で、智広の全身に戦慄が走る。
「―――ッ……!」
  そこを探り当てた惟秋の指が、智広を声もなく叫ばせた。目の裏側で白い火花が散ったような快感に瞬間息ができなくなる。
  知識としては知っていた。そこをいじられれば、反射的に反応してしまうことは。
  井上は口での奉仕に疲れたのか、自身をスイミングパンツからつかみ出すと、智広のモノと重ね合わせて絶妙の力加減でしごいていた。
  前と後ろからの刺激で、智広の感覚はジャグジーの中でばらばらに砕けて流されそうだった。
  ずぶずぶとお湯を含みながら出し入れされる惟秋の指が智広の脳髄をかき混ぜ、井上の手淫はジャグジーの泡を攪拌する。
「智広さん……」
  わずかに掠れた惟秋の声が、飛びかけた智広の意識を引き留めて、抜かれる指の感触に身をすくませた。
「智広さん、いれますよ」
  宣言されても、身構える暇もなかった。
「うっ…あぁ……っ!」
  ジャグジーのお湯より熱く、硬い昂ぶりが智広の身体を開きながらめり込んでくる。
  焼け付くような痛みに悲鳴をあげる身体が逃れようとお湯の中でもがくが、腰をがっしりとつかまれて打ち込まれた楔は、惟秋が腰を揺すり上げて突き上げるたび、智広の奥へと刻まれていく。
「あっ、あっ、…あ…っ…あ、…あぁっ――…」
  智広の背後には惟秋が、前には井上がいて、ジャグジーのガラス張りの部屋には互いの肉体のぶつかり合う音と息遣いと、智広の苦しげな喘ぎ声が反響した。
  唇を半開きにして浅くしか呼吸のできない智広を、惟秋はさらに背後から両手で智広の両太腿を広げ抱えるようにして深く貫いた。
  ずぶずぶと埋められた惟秋の猛りはこれ以上ないほど奥まで突き入れられ、ついに智広の身体の中へと全部飲み込まれた。
「……ぅ、…っ……」
  ずくりと智広の身体の最奥で脈打ったのは惟秋自身だった。
  強引に受け入れさせられた狭い口が、はち切れんばかりにぎりぎりまで拡げられて、惟秋を咥え込んでいる。結合部分の痛みが、じりじりとした疼きに変化し始めたとき、惟秋が動いてぐりっと中を抉られた。
「ああぁっ!」
  悲鳴が思わず智広ののどを衝いた。ほとんど痛みのような衝撃的な快感が、智広の感覚神経を一瞬で支配する。繋がったところから一気に脳天まで突き抜けるような快感だった。
「……智広さん」
  背後から抱きしめられて名前を呼ばれた。
「痛いですか…?」
  強引に身体を繋いでおきながら、惟秋は気遣うような声で智広に訊ねた。そんな仕種に智広は不意に泣きたくなる。
  最初の衝撃に慣れると、惟秋でいっぱいに満たされた部分から体中に熱い震えが広がっていった。どくどくと音を立てて流れる血流が、麻薬のような快感を全身の隅々へと運んでいく。
  井上が智広自身と自分のモノを重ね合わせて激しく扱きながら、「うっ」と短く呻いて絶頂に達していた。
  智広の前も挿入されたときのショックで萎えながら、再び力を取り戻しつつある。
「動きますよ」
「あうっ!」
  ずるりと引き出されて、智広は我知らず叫び声を上げていた。
「あっ、あっ…、あぁっ…たっ、…ただ……あきっ…!」
  内臓ごと引き出されるような錯覚に智広はパニックを起こしかけ、必死に惟秋の名前を呼ぶ。
  惟秋の猛った楔がずんと突き入れられると、ジャグジーのお湯を巻き込んで信じられない刺激が智広の全身を走り抜けた。痛みより強烈な、甘く苦痛めいた未知の快感だった。
  ジャグジーの浮力を使って惟秋は、思う存分智広を深く最奥まで貫きながら硬い楔で突き上げる。
  惟秋の硬い切っ先に中を抉られるたび、智広の脳裏を白い火花が散った。ばしゃばしゃとまるで溺れているみたいに、ジャグジーの泡の中で智広は惟秋に翻弄される。
  いつの間にか井上は湯あたりでもしたのか、ジャグジーから上がってタイルの床に伸びているようだった。
  智広はジャグジーの縁の手すりにしがみつくと、体位を変えて背後から抜き差しを繰り返す惟秋にがくがくと身体を揺すられる。
  智広はもう何も考えられなかった。とっくの昔に考えることを放棄していた。
「あっ…イイ…あっ、……あぁっ…!」
  自分が何を口走っているのかもわからなかった。正気だったら聞くに堪えられない卑猥な水音が響く結合部をくねらせ、快感にむせび泣きながら、いま自分の全身の血は、ジャグジーのように泡だっているのだろうかと、智広はぼんやり思った。

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